ぜんぜん足りない。
鏡の前でシャコシャコ。
こおり君が黙って隣に並んでくる。
「リツキくんが今風呂に入ってるってなに?」
「んん、 ほれが、にしゅうはんほまることに、なっひゃって」
「いっかい出してから喋ってくんない?」
「うう……」
言われたとおりにした。なんかそれが恥ずかしくて、水でジャーって流した。
「それが、2週間、泊めることになっちゃって」
「……うん。なんで?」
「律希ね、寮生活だったんだけど、停学処分食らって追い出されたんだって」
「ふうん」
自分で聞いたくせに、ふうんで終わらせるこおり君。
バカ。せっかくペッ、てしたのに。口の中の歯磨き粉薄まっちゃったよ。
……そう、心の中で悪態をついたのもつかの間。
「じゃあ、その2週間終わるまでおれの部屋来ないでね」
衝撃的なセリフに、一連の動作と、思考と、……時間さえ止まった気がした。