ぜんぜん足りない。


ひとりで頭を真っ白にしていたら、もう5分経ってしまっていた。

うがいをして、半ば放心したまま玄関へ向かう。


……今日って、結局、こおりくん家に歯磨きしに来ただけじゃんわたし。


なにそれ。ええっ?

これを最後に、2週間も会えないの?


こおり君はそれで平気なの?

そりゃあ、平気に決まってるけど。

わたしは、平気じゃないよ……。


メンタルお豆腐だよ。
これ以上ズタズタにしないで。


「お邪魔しました……」


生気の抜けた声が聞こえるな、と思ったら自分の声だった。

玄関に手を掛けたわたしの背後に、こおり君が立つ気配がした。



「桃音、これちゃんと持って帰って」


渡されたのは歯磨きセット。

いいじゃん、それくらい。洗面台に置いたまま、
カノジョいますよって匂わせくらいしてくれたって。

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