ぜんぜん足りない。
「こおり君のバカ」
「………」
「人でなし! 鬼!」
「………」
ノーダメージ。
それどころか心底呆れた顔をして。
「大きい声出さないで。近所迷惑」
「………」
今度はわたしが黙る番。
なにも言い返せないよ。
これがこおり君だよ、知ってるけどね。
「もう帰る」
「うん」
「こおり君のバカ」
「ハイハイ、わかったわかった」
「……おやすみなさい……」
「………」
扉を閉めようとした。
でも、閉まらなかった。
……こおり君が取っ手を持って、阻止してたから。
「桃音、」
わずかに細められた目が見えた直後、視界が暗くなる。
「…っ、ん」
触れたのは柔らかい唇。
フリーズする。
状況を把握して
「……えっ?」
と声を上げたときには、もう扉は閉まっていた。