ぜんぜん足りない。



キスの効果って絶大なの。

平日、土日、その余韻でとりあえず1週間は乗り切ることができた。


寂しくなったらこおり君がしてくれたキスを思い出すんだ。

長くて深くて甘いキスも、もちろんだけど、玄関先でこおり君が自らしてくれたあの一瞬のキスが、どうしてかいちばん胸をドキドキさせる。



「毎日機嫌いいよなあ、お前」


わたしを横目で見ながらそんなそとを言う律希は、あれから特に変わった様子はない。

好きだとかいう妙な冗談も言わないしもちろんキスもしてこない。


軽口を叩き合って、テレビのチャンネル奪い合って、家事を分け合って。

順調すぎるくらい順調。色恋の「い」の字もない感じ。



……だから、無意識に慣れてしまう。


広くないソファにふたりで座って、スマホをいじったりテレビを見たりしてるときに肩が触れる瞬間とか、

おもむろに顔を上げた先、思いのほか近い距離でぶつかる視線とか。


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