ぜんぜん足りない。
こおりは溶けない。
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「じゃあ学校に行ってくる、です」
次の日、スクバを持ってそそくさと家を出ていこうとするわたしの肩を律希が掴んだ。
「んひゃあっ⁉」
「ヘンな声出すなよ」
「だ、出してないよ。……それで、どうしたの?」
「どうしたのっていうか。昨日から、お前なんか変だろ」
ギクッとなる。やっぱりヘンなのかな。
平常心を保とうとすればするほど普通がわからなくなる。
「どこもヘンじゃないですけど」
「じゃあこっち見ろよ」
「っ、見てるよ」
「あからさまに逃げてんだろ」
「逃げてないから!」
無理やり振り切って玄関を飛び出した。
マズい、これじゃあ益々怪しまれちゃう。