ぜんぜん足りない。


「なんか悪いことしてる気分」


わたしから酸素を奪い尽くしたこおり君は、吐息混じりの声でそう言った。


「十分悪いことか。エレベーター止めてんだもんね」


体が離される。

扉が開いて、わたしたちの間を風がすううっと通り抜けた。


キスの余韻は残ったまま。


「はあ、学校だるい」

そう言って、さりげなく手を引かれるからびっくりする。



「ちょっ、こおり君⁉」

「だから。耳壊れるって」

「だって、手……!」

「手がなに」


とぼけてるつもりなのかな?

やっぱり、今日のこおり君おかしいよ。


マンションを出ると、手は解かれたものの。



「あの、時間置かなくていいの?」

「たまたま登校時間被った。ってことでいいじゃん」

「それは……一緒に登校してもいいってこと?」


< 143 / 341 >

この作品をシェア

pagetop