ぜんぜん足りない。
「なんか悪いことしてる気分」
わたしから酸素を奪い尽くしたこおり君は、吐息混じりの声でそう言った。
「十分悪いことか。エレベーター止めてんだもんね」
体が離される。
扉が開いて、わたしたちの間を風がすううっと通り抜けた。
キスの余韻は残ったまま。
「はあ、学校だるい」
そう言って、さりげなく手を引かれるからびっくりする。
「ちょっ、こおり君⁉」
「だから。耳壊れるって」
「だって、手……!」
「手がなに」
とぼけてるつもりなのかな?
やっぱり、今日のこおり君おかしいよ。
マンションを出ると、手は解かれたものの。
「あの、時間置かなくていいの?」
「たまたま登校時間被った。ってことでいいじゃん」
「それは……一緒に登校してもいいってこと?」