ぜんぜん足りない。
こおり君と並んで校門をくぐったそばから逃げ出したくなる。
痛いくらいに突き刺さる視線たち。
コソコソコソコソ、セリフは聞き取れなくても、いい内容じゃないってことだけは明らか。
「こおり君、やっぱりわたし離れて歩くよ……」
そっと距離を置こうとするも、振り返ったこおり君に腕を掴まれる。
周囲から悲鳴みたいな声が聞こえたのは……気のせいでしょうか。
「あのっ放して…痛いの、皆からの視線がっ」
「いつものことでしょ。慣れてんじゃん、おまえ」
慣れてる。確かにそう。
話しかけにいっては冷たくされ、相手にされない。
周りにいる女の子たちの前で何度もそれを繰り返して、浴びせられるのは毎度、嘲笑と哀れみの視線。
「でも、それとこれとは違うんだよ。こおり君に冷たくされて見られるのは慣れてるけど、優しくされて見られるのは、違うの」
「……何言ってんのかわからない」