ぜんぜん足りない。
「──桃音?」
その目はたしかにわたしを捉えている。
なんで振り返るの?
わたしがついてきてないことに気づいたから?
那月ちゃんと、そのままふたりで教室まで行けばよかったのに。
「え? ちょっと光里……」
戸惑った声を出す那月ちゃんに見向きもせず、こちらに歩み寄って来るこおり君。
思わずたじろいでしまった。
パシッ、と。
再びわたしの手を掴んだかと思えば、耳元に唇を寄せてくるからびっくりする。
「なに泣きそうな顔してんの」
「……う、え?」
「このくらい、いつも平気な顔してるくせに」
「や、だって。……え? なんで戻ってくるの? 那月ちゃんにヘンに思われるよ……っ?」