ぜんぜん足りない。
わたしと付き合ってると思われるのが嫌だから、いつも無視してるんだよね?
バレたら別れるって言うくらい……。
「ホント意味わかんないね、おまえ」
「えっどうして、」
「いつもさんざん追いかけてくるくせに、おれから近づいたら逃げるんだ」
「だ、って……こおり君は今、那月ちゃんと歩いてたじゃん。わたしがいたら邪魔だと……思って」
やっぱりヘンだよ。
いつものこおり君じゃないよ。
学校で、心臓を壊すくらいドキドキさせるこおり君なんておかしいよ。
「桃音はおれの彼女なんでしょ」
低くて甘い声に。
あついあつい熱が顔全体を覆っていく。
このセリフを聞くのは2回目。
「今日くらいは堂々と隣歩いてればいーのにさ、」
わたしにしか聞こえない声でこおり君はそう言った。声が小さいぶん距離が近いの。
こんなのもうキスしてるのと一緒だよってくらい近いの……。