ぜんぜん足りない。
.
.
「光里ー! 昨日約束したやつどう? もうやったか⁉」
教室の扉をくぐろうとしたときだった。
中にいた男子たちの、大きな声が飛んできた。
「 “できない” に賭けてたヤツが多かったよな」
「“できる” に賭けた奴のほうが 儲けはでかいぞ」
「くそ〜。 桃音チャン早く登校してこないかなー!」
なんの話か、すぐには理解ができなかった。
でも今、たしかに桃音チャン、とわたしの名前を呼ばれた気がする。
わたしはここにいるけど、こおり君の背中に隠れているせいで、中の人たちからは見えてないみたいだった。
「三万もの額が動くこと、ちゃんと考えてやれよ?」
あんな声と、
「桃音チャン、光里にもしキスされたらさぞ喜ぶだろうな〜。健気だし、夢見させてやる俺たち優しい〜」
そんな声と、
「っ、おいバカ。桃音チャン、すぐ後ろにいるぞ⁉」
……こんな、声。
頭が真っ白になる。
次に聞こえたのは、「ごめん」という抑揚のない、こおり君の声だった。
「おれが桃音とキスできるかどうかって、そーいう賭け事」
……何を言ってるんだろう。
脳が考えるのを拒否しているみたい。
手首を引かれたのが、ぼんやりとわかった。
距離が縮まる、目の前が暗くなって
──唇が重なった。
学校で、キス。
夢みたいなハナシ、地獄みたいな現実。
冷凍庫に入れられたままの
こおりは溶けない。
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「光里ー! 昨日約束したやつどう? もうやったか⁉」
教室の扉をくぐろうとしたときだった。
中にいた男子たちの、大きな声が飛んできた。
「 “できない” に賭けてたヤツが多かったよな」
「“できる” に賭けた奴のほうが 儲けはでかいぞ」
「くそ〜。 桃音チャン早く登校してこないかなー!」
なんの話か、すぐには理解ができなかった。
でも今、たしかに桃音チャン、とわたしの名前を呼ばれた気がする。
わたしはここにいるけど、こおり君の背中に隠れているせいで、中の人たちからは見えてないみたいだった。
「三万もの額が動くこと、ちゃんと考えてやれよ?」
あんな声と、
「桃音チャン、光里にもしキスされたらさぞ喜ぶだろうな〜。健気だし、夢見させてやる俺たち優しい〜」
そんな声と、
「っ、おいバカ。桃音チャン、すぐ後ろにいるぞ⁉」
……こんな、声。
頭が真っ白になる。
次に聞こえたのは、「ごめん」という抑揚のない、こおり君の声だった。
「おれが桃音とキスできるかどうかって、そーいう賭け事」
……何を言ってるんだろう。
脳が考えるのを拒否しているみたい。
手首を引かれたのが、ぼんやりとわかった。
距離が縮まる、目の前が暗くなって
──唇が重なった。
学校で、キス。
夢みたいなハナシ、地獄みたいな現実。
冷凍庫に入れられたままの
こおりは溶けない。