ぜんぜん足りない。
えっ……えっ、隣?
誰が住んでるのって?
いきなり、な……
「なんで……?」
「なんでって。俺がここいたときは、隣は空いてたろ?」
「そっ、そうだけど」
「さっき外出たとき、隣の玄関の前に男が立ってたんだよ」
ドキッとして、ヒヤッとした。
隣の男って……。
いやでも!
こおり君は今朝、わたしと登校したし、今は学校にいるわけで。
じゃあ誰?
「それってどんな人?」
「んー? 大人? なんか、高そうなスーツ着てたな」
「……へー、そうなんだ。わたし、よく知らないんだよね、アハハ」
このマンションは基本的に家族関係者しか入れないはずだけど……こおり君の知り合いかな。
ああ、だめ。
こおり君の顔を思い出すと何も手につかなくなる。
無意識に唇を噛んでたことに気づいて、慌てて頭から振り払った。
唇なんか噛んでる場合じゃない。
今は律希の看病に専念するんだ。