ぜんぜん足りない。
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『どうも、隣に越してきた郡です。引っ越し当日はお騒がせして申し訳ありませんでした。……ご家族の方はいらっしゃいますか』
ぼやぼやとした景色。
大好きな声の脳内再生。
しばくして、これは夢の中だってわかった。
こおり君が引っ越しのあいさつに来たとき。
わたしが初めてこおり君と話した日の夢。
高1になってすぐの出来事だったと思う。
“郡 光里”って名前は、すでに学校で有名だったから聞いたことがあった。
顔もうろ覚えながら認識していたから、扉を開けた先にこおり君が立ってたときは、それはそれはびっくりしたんだ。
でもいわゆるイケメンとして騒がれてる男子にさほど興味がなかったわたしは、
“少女漫画みたーい! ”
って、どこか客観的にワクワクして1日を終えた気がする。