ぜんぜん足りない。
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「──桃音、起きろ」
「……んん……」
体を揺すられて、ひゅうっと勢いよく現実に引き戻された。
目の前には、律希の顔面どアップ。
「わたし寝てたっ?」
「うん」
「ひえっ。どのくらい⁉ 1時間くらい経っちゃったかな」
「1時間どころじゃねえ。もう夕方だわ」
「えっ‼」
嘘だ! 夢はあんなに短かったのに!
「うわーん大変だ。今日は手抜きのカップ麺にしようかなあ。律希は夜もおかゆでいい?」
「いーよ。てかさ」
「なに?」
「耳澄ましてみて」
なにやら真剣な面持ちでそう言った律希。
「なんで?」
「なんか聞こえる……ヤバそうな音」
「えっ、やだ。なに? 怪奇現象とか言わないよね」
「違う。なんか怒鳴り声みたいな……のと、あと物がいろいろぶつかるような音……。たぶん隣から……」
──────隣?