ぜんぜん足りない。
律希に離れた場所で待ってもらったのはいいけど、こおり君と顔を合わせたらなんて言おう。
ヘンな別れ方したばっかりなのに。
さっきの物音はなに?
誰かいたの?
大丈夫……?
頭の中でざっとシュミレーションしてみる。
大丈夫、ふつうに。
彼女としてじゃなくて、隣人として心配になってきたと思えばいいよね。
深呼吸、人、人、人……。
そのときだった。
カチャリと鍵の回る音が聞こえて、目の前の扉が開いたのは。
「っ、こおり君……」
「……は、」
わたしを見下ろす目。
その上、額のところに赤黒いアザ──────。
同じものが、口元にも、あって……。