ぜんぜん足りない。
「こおり君、どうしたのそれ……」
「打っただけ。出かけるからそこどいて」
「な、殴られたんじゃないのっ? さっき、男の人の声とか、してたけど」
「……さあ。空耳なんじゃない」
そっけない返事。
わたしを押しのけて出ていこうとする。
「待って、こおり君」
「邪魔」
「やだ、ちゃんと話してよ。心配で寝れない……」
「おまえに関係ない」
冷たい視線に泣きそうになる。
冷たいのはいつものことだけど、今日の冷たさはいつもと違う。
声にも目にも元気がない……。
そっけなく振る舞ってるんじゃなくて、そんな声しか出せないんじゃないかって……考えてしまう。
だから咄嗟に
「関係あるよ……! わたし、こおり君の
彼女……だし」
その腕を掴むしかなかったんだ。
律希がすぐ近くで聞いてることを、知ってたとしても……。