ぜんぜん足りない。
「フラれちゃった、」
「は?」
「フラれてきた。たった今……」
「……、別れた、ってこと?」
「うん……」
お兄ちゃんはわたしが悲しんでるときは必ず、なにも言わず背中を優しくさすってくれるんだ。
だから今も──────
「慰め、いる?」
「……いる」
熱で苦しいはずなのに、自分のことを二の次にして甘えさせてくれる。優しいお兄ちゃんなの。
だけど、本当は、もう──────。
「なあ。俺にする?」
「……なに言ってるの、冗談やめてよ。律希は……」
「俺たち、もうキョーダイじゃないよな?」
ドクンと重たい音がする。
「俺たちの親、1年前に離婚したんだから」
……わたしたちは、連れ子同士。
「元々血の繋がりはないわけだし。今はただの男と女」
「……」
「俺が家出たのは、お前の“お兄ちゃん”をこれ以上やりたくなかったからなんだけど。……この意味わかる?」
優しいこの人は、わたしが妹であることを許してくれない。