ぜんぜん足りない。


ふたりの近すぎる位置に、びっくりそわそわ。

今まで、このふたりがこんなふうに接近して話しているのは見たことない。



こおり君が囁いて、みっちーはそれに答える。ほんの短い会話。

セリフは少しも聞き取れなかった。


やがてこおり君が背中を向けたタイミングで、担任の先生が入ってきた。


「“ありがとう”、ねえ……」みっちーは小さく何かを呟いて、脱力したように席につく。



間もなく朝礼が始まった。


わたしはこおり君を忘れるために、隙あらば「こおり君なんか嫌い」と頭の中で唱え続ける。

おかげで先生の話なんか、ちっとも入ってこなくて。

だから……



「国立と郡、わかったな?」


名前を呼ばれて、視線が集まり、わたしはゆっくり瞬きをする。


先生いま、クニタチとコオリって言った。

わかったな?ともう一度圧をかけられて、思わず「はい」と返事をしてしまったけど……え?



「放課後、職員室。ふたりそろって絶対来いよ? 昨日提出の課題出してないの、お前らしかいなかったんだからな」


意味をようやく理解して、さああっと血の気が引いていく。
怒られる、ってことよりも、早く忘れたいこおり君とふたりで、っていうのが。


神さま、どうして意地悪ばっかりするんですか。


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