ぜんぜん足りない。
「どうやったらこんな派手にコケるわけ」
「ええっと、……注意力散漫、前方不注意、?」
「ドジ」
「ごっ、……めんなさい」
おかしいかも。
ドジって言われて、今ちょっと喜んだ。
ううん、語弊がある。
嬉しいのは……こおり君が面と向かって喋ってくれたから、だ。
わたしってドエムなの?って一瞬焦ったけど、恋って、こじらせたら、少し話せただけでも涙が出そうになるらしい。
目と胸の奥のほうが、じんわり熱いよ。
手が離されても、しばらく棒立ちしてしまった。
放心しているうちに、わたしが倒した雑巾がけをもとに戻してくれたこおり君は、再びこっちを向いて一言。
「痛い?」
「す、少し……」
「血出てる」
「あ…ほんとだ」
「保健室で消毒してから行く?」
「……え?」
こおり君は、あくまで淡々と話してるだけだった。
わたしを見下ろす目には、いつもと変わらずなんの感情もこもってない。