ぜんぜん足りない。
「……こおり君? どう──」
どうしたの?
そのセリフは大きな手のひらの中に吸い込まれていった。
『喋るな』の合図。
なんで?と、見上げた矢先のことだった。
「あっ……ユウタくん……っ、……あぁんっ」
奥の方から聞こえてきたソレに
理解するより先にドキーン!と心臓が飛び出た。
あっえっと、これは、これは……!
もしかせずともっ。
カチン、コチン。
体は地面に張り付いたように固まるのに、心臓だけはもはや吐き気をもよおすくらいに盛大にビートを刻み続ける。
聞いてしまった、聞こえてしまった!
焦る気持ちとは裏腹に、聴覚が研ぎ澄まされたような感覚に陥るから不思議。
決して聞きたいわけじゃないけど、うそ、本当に?空耳なんじゃないの?って。
驚きという名の好奇心がそうさせる。