ぜんぜん足りない。
詮索したら嫌がるだろうし、実際、昨日も玄関先で完全に拒まれた。
ましてや、もう彼女じゃないわたしなんか
家で話しかける権利すらないよね……。
「国立」
「あっはい」
「もう話は終わったぞ。いつまでも突っ立ってないで帰りなさい」
「……っは!」
慌てて隣を見ると、さっきまでそこにいたはずのこおり君の姿はなく。
えっ、あれ⁉
いつのまに……!
「あっ、ご、ご指導ありがとうございました! 失礼しますっ」
職員室の出入り口まで駆け抜けたいのを我慢しつつ、それでも早歩きで逃げるように先生のもとを立ち去った。
ガララララ、扉を閉めながらこおり君を探すけど……
「いない、よね……」
真っすぐ続く廊下はがらんとしてて人影はない。
がくんとうなだれた、次の瞬間。
「出てくんのおっそ」
「ぎゃっ⁉」
左の壁から探していた顔がいきなり現れるから、お化け屋敷のごとく叫んでしまった。