ぜんぜん足りない。
ふたりで教室へ向かう。
縦列で距離をあけて歩いてた行き道とは違って、そっと隣に並んでみたら、なんとびっくり、怒られなかった。
「お説教、短く済んでよかったね」
機嫌をうかがうように話しかけてみれば、「うん」と素直な返事が返ってくるから、いよいよ調子が狂う。
「こおり君が怒られてるところ、なんか新鮮だった」
「いつもは上手くやってるんで」
「こおり君て案外真面目だよね」
「そうでもない。手抜きでラクに片付けてるだけ」
そういうの、器用っていうんだよ。
お喋りしてる時間はあっという間に過ぎていく。
そして、この並んで歩く距離感が当たり前だって錯覚してしまう。
『2-2』のクラス板が見える頃には、フラれたという都合の悪い部分は完全に棚に置かれていて、浮かれた気分だけが残っていた。