ぜんぜん足りない。
こおり君、さっきまでわたしと喋ってたくせに、もう視界は完全シャットアウト。
那月ちゃんしか映してない。
「ねえ、光里の家にはぜーったい、どうしても行っちゃだめなの?」
「うん。絶対来ないで」
「そっかあ残念。じゃあ今度ウチに呼ぶね。もちろん、親がいないときに」
えっ?と声を出しそうになる。
いくらなんでも、男友だちに言うセリフじゃないよね。
親がいないときってなに?
声には出なくても、つい、那月ちゃんのほうを向いてしまったわたし。
視線に気づいたらしい那月ちゃんがわたしを見て、焦ったように笑った。
「あっ。人前でする話じゃないよね、ごめんね?」
心臓が、ドクリ。
「その……みんなにはまだ内緒にしてもらえると嬉しいな。……光里と付き合ってるって……」
──付き合ってる、
声が頭の中でゆっくりと反響する。
照れたような笑顔が幸せそうで、何も言葉が返せなかった。