ぜんぜん足りない。
違う、そうじゃなくて。
「律希を傷つけたくないから……」
「はあ? 言ってる意味わかんねぇぞ」
「ええと……。わたしがこおり君を好きでも、こおり君はわたしを好きじゃなかったでしょ? そういう状態で付き合ってもらってたけど、結局は虚しいだけだったから……」
「それ、遠回しに俺のことはもう好きにならないって言ってる?」
わたしの毛先を最後にもう1回もてあそんで、律希は手を離した。
「俺、べつにお前みたく弱くねーよ」
「強い弱いの話じゃなくて! わたしが自分を許せないからだめなの!」
チッと舌打ちされた。
強情すぎんだろ、と不貞腐れたようにそっぽを向く。
「律希はあとちょっとで停学明けるんだから、それまでに体調万全にしとかなきゃだよ」
ソファに寝っ転がった背中にそう言っても、返事はなかった。