ぜんぜん足りない。

違う、そうじゃなくて。



「律希を傷つけたくないから……」

「はあ? 言ってる意味わかんねぇぞ」


「ええと……。わたしがこおり君を好きでも、こおり君はわたしを好きじゃなかったでしょ? そういう状態で付き合ってもらってたけど、結局は虚しいだけだったから……」

「それ、遠回しに俺のことはもう好きにならないって言ってる?」



わたしの毛先を最後にもう1回もてあそんで、律希は手を離した。



「俺、べつにお前みたく弱くねーよ」

「強い弱いの話じゃなくて! わたしが自分を許せないからだめなの!」



チッと舌打ちされた。
強情すぎんだろ、と不貞腐れたようにそっぽを向く。


「律希はあとちょっとで停学明けるんだから、それまでに体調万全にしとかなきゃだよ」


ソファに寝っ転がった背中にそう言っても、返事はなかった。


< 218 / 341 >

この作品をシェア

pagetop