ぜんぜん足りない。
部屋着に着替えようと、いったん自分の部屋に戻ったタイミングでスマホが鳴った。
メッセージ受信の通知。
送り主は……ミヤちゃん。
【 桃ちん〜。今から通話したいんだけど、かけてもいい? 】
なんだろう。相談事でもあるのかな。
そう思って、返事をするまえに自分から通話ボタンをタップした。
すると、3秒もたたないうちに通話開始画面に切り替わって、「桃ちん‼」と勢いよく名前を呼ばれ、肩がびくうっと跳ね上がる。
「ミヤちゃ、どうしたの?」
『郡光里のことなんだけど……』
こおり君をフルネームで呼び捨てたミヤちゃん。
わたしは反射的にごくりとつばを飲む。
『みやこね、さっき繁華街で見たんだ。郡光里が、』
「那月ちゃんと歩いてた?」
気づいたら遮ってた。
たぶん自己防衛。
ミヤちゃんから聞くより先に覚悟を決めておくことで、受けたときのダメージを軽減させようとしたんだと思う。