ぜんぜん足りない。

ミヤちゃんは続ける。


『桃ちんずっと元気ないよね。律希くんが家を出ていったから、その寂しいのを引きずってるんだと思ってたけど。いくらなんでもそれで日常生活に支障をきたすくらい落ち込むって、やっぱりヘンだと思って』


こおり君と付き合ってから、そんなにわかりやすく落ち込んでたのかな。


本当はずっとミヤちゃんにも話したかったんだよ。

なのに言えなかったのは、こおり君が誰に言わないって約束をつくったせい───じゃなくて。

こおり君に別れを告げられるのが怖いっていう自分勝手な気持ちを優先した、わたしの弱さのせい。



「ミヤちゃんごめんね、ちゃんと話す。……1からぜんぶ話すね」



制服のままベッドに腰を下ろす。

リボンをぎゅっと握りながら話した。

こおり君が越してきた日から、今日の放課後の出来事まで洗いざらい。



『那月ちゃんと一緒にいてほしくない。でも、もうそんなわがままも言えないのが、悲しい……わたしはもう、“彼女”じゃないから』



そこまで話して、ぽとり。

涙がひと粒。

太ももの上に落っこちた。


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