ぜんぜん足りない。
特に顔色を変えないまま下矢印を押したこおり君。まもなく数字が光ってスーッと扉が開くけど。
「……乗らないなら閉めるけどいーの」
「……」
「聞こえてんの?」
「わた……わたし、忘れ物した!」
そう言って、くるり。
身を翻して玄関まで戻った。
もちろん嘘。
だって近くにいたら、忘れるなんて一生無理そうなんだもん。
玄関の前にしゃがみこんで、1分、2分……。
もうそろそろいいかなと立ち上がって、ひとりでエレベーターに乗り込んだ。
一方的に動揺してバカみたい。
ため息をつきかけて、でも余計気分が下がりそうだから呑み込んで通学路に出た。