ぜんぜん足りない。


「怒られた次の日に課題忘れるとか、すごい度胸してんね」



静かな声。

知ってる響きにドキ…っとした。


こおり君が丁寧な手つきでプリントを拾ってくれる。


なんで……。


おかしいのかもしれない。
これだけのことで涙がでそうになるわたしは、おかしいのかも。


忘れたいのに、なんで別れたあとに急に優しくなるの?



「はい、これで全部?」

「うん、……」


ありがとう、が出てこない。

それどころか


「半分持ってやろうか」


これ以上、心の中に入ってきてほしくなくて、思わず。



「やめて……わたしにあんまり関わらないで」

「……桃音?」


「こおり君と一緒にいたくないのっ。もう、……嫌い……だから」


──冷たい声がでた。


わたし、今なんて。

時間差で後悔に襲われる。


こおり君の顔を見れなくて、何か言われる前にと急いでその場を離れた。

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