ぜんぜん足りない。
立ち上がってふと隣の席を見たら、みっちーのカバンがあった。
女の子と校内デートでもしてるのかもしれない。
そう思いながら席のあいだを縫って扉に向かっていたとき、もう一人の荷物があるのを見つけた。
見つけたというより、その席を意識して視線を送ったら荷物があった、って言ったほうが正しいかも。
──こおり君の席。
机の上に、脱いだ上着が無造作に掛けられていた。
どこに行ってるんだろう。
すぐに那月ちゃんの席を確認してしまう自分に嫌気がする。
だけど、那月ちゃんの荷物はなくて……。
どこかホッとしたと同時、ヘンな欲望が湧き上がってきた。
教室にはひとり。
目の前には好きな人の上着。
どうせ、もう終わりだし。最後にするし、2週間後には新しい彼氏ができるかもしれないし。
そんな言い訳を並べながら、半ば無意識に上着に手を伸ばしていた。
抱きしめて、顔をうずめる。大好きな匂いに鼻の奥がツンとなった。
……ああ、わたし、ほんとに懲りない。
──ガララ…っと。
教室の扉が開いたのはその直後のこと。
「……っ、」
相手の息を呑む気配に、わたしはびくりと肩をびくりと肩を震わせた。