ぜんぜん足りない。
かぜひき治らない。
──ここは真っ先に上着を隠して、何か関係ないセリフを放って誤魔化すところなんだけど。
残念ながら、反射神経は仕事をしてくれなかった。
「えと……、あの……」
頭が真っ白、しどろもどろ。
制服を体から離すことも忘れてて棒立ちしてしまう。
相手は気まずそうにそらした目を再び戻して、思い切ったように、きらんと八重歯を覗かせた。
「だいじょーぶだよ、光里はしばらく戻ってこないから〜」
その制服、存分に堪能したら?って。
冗談めいた口調で笑ってくれるのは、この人の優しさなんだと思う。
そう言われてやっと頭が働き始める。
見つかったのが本人じゃないだけ、まだよかった。
「みっちー……こ、こおり君には、」
「言わないで、って?」
「あう……、はい、お願いします……」
なんとしてでも黙っててもらわらないと。
そのためなら、軽く命だって捧げたいくらい。