ぜんぜん足りない。
テレビからニュースが流れてる。
天気予報のお姉さんが傘マークを棒で差して、夕方からの強い雨に注意が必要です、って言った。
「傘忘れんなよ」
「言われなくても持っていくし」
「今夜から気温もさがるらしーぞ」
「……あったかくして寝るよ、ちゃんと」
律希の遠回しな言い方に紛れた優しさ。
ありがとうね、って心の中でつぶやく。
「じゃあ、俺もう行くわ」
「えっ。早くない?」
「通勤ラッシュにぶち当たりたくねーの。大荷物持ってると迷惑にもなるしな」
「……そっか」
玄関までついていった。
「律希、ひまなときは電話かけてきてもいいからね」
「お前がかけてほしいだけだろ」
「……」
「かけるかける。じゃあ、またな」
ぽん、と置かれる大きな手。
優しい目をした目の前の人は、もう完全にわたしのお兄ちゃんだった。