ぜんぜん足りない。
こおり君は同じマンションのお隣さん。
訳あって今年から家にひとり残されたわたしと、
訳あって今年から隣の部屋に住むことになったこおり君。
お近づきになれるまでは早かったけど、そこから先はぜんぜん進まない。
わたしにとっては一世一代の告白だったつもりだけど、
あっさりオッケーしてくれたこおり君にとっては、お遊び以外のなにものでもないっぽい。
自分の部屋に入って、ごろんとベッドに横になった。
夜の7時30分。
いつもなら、こおり君の部屋にお邪魔してる時間だけど……。
「今日は……我慢、我慢」
口に出して唱える。
さっき思いついた、押してだめなら引いてみろ作戦。
毎日こおり君の部屋に入り浸ってるわたしが、連絡もなしにぴたっと来なくなったら
さすがのこおり君でも気にかけてくれるに違いない。
きっと、あと1時間もすればスマホが鳴って、こおり君から連絡がくるはず。
きっと、ぜったい、くるはず……。