ぜんぜん足りない。
律希の連絡先をタップ。
5コール目でプツ、と呼び出し音が切れる。
「律希‼」
『うるさ……』
「やっぱり律希は悪くなかったんじゃん!女の子を助けるってヒーローじゃん!」
『……はあ、父さんに聞いたのか。この前、可愛い子から告白されたけど断ったって話したろ。襲われてたのその子だったわけ』
「えええ、それは間違いなく恋が生まれる……ときめくよ……」
『……』
照れてるのかウンザリしてるのか、律希は少し黙ったあと、話はそれだけ?と切りたそうに言ってきた。
それだけだけど、なんとなくもっと話したいから会話を繋げてみる。
「律希は、その子の気持ちに応えるつもりは、もうないの……?」
『んー。まあ、のちのち?』
「のちのち?」
『お前が、好きなヤツとうまくいくのを見届けたら、応える』
「ええっ!」
『わかったか? 俺の幸せはお前にかかってんだよ。しっかりしろよ』
律希の励まし方はずるくて最強だ。
律希が幸せになるために頑張るからね。
わたし、前向くからね。
恋バナってつい止まらなくなってしまうもので、律希が放送で呼び出されるギリギリの時間まで、話が尽きなかった。