ぜんぜん足りない。


何言ってんの、と思う。

でも


「救ってくれんの?」


半分以上諦めかけて、それでも期待の混じった声がでた。

その質問には答えずに、みっちーは続ける。



「おれの知ってる郡光里は、この場面で、救ってくれんの?なんて言わないんだよなあ。周りのことぜんぶどうでもよくて、自分がどうなってもいいって思ってる人間……“ だった” 」

「……」

「間違ってないっしょ? でも、もう違う。光里は、桃音ちゃんを大事に想いすぎて変わっちゃったから」

「………」


「……普段賭け事に参加しないくせに、桃音ちゃんが他の男にターゲットにされたら血相変えて自ら相手役を買ってでるくらい、好きなんだもんね」

「……そうだね」


素直な返事が溢れる。



「桃音、泣いてた?」

「逆に泣かないと思う?」

「……」

「泣いてたよって言ったら、嬉しいだろ」

「そうでもないよ。泣かせすぎて、もうしんどくなってきた」



その直後だった。

死角に座ってたはずのおれたちの前に、誰かの立つ気配がした。


ドクリと心臓が鳴る。


──────そこには、見知った女性の顔があった。


< 311 / 341 >

この作品をシェア

pagetop