ぜんぜん足りない。
……目頭があつくなった自分に、バカみたいに動揺した。
『……ありがとう』
そう言った唇が震えていたことを、たぶん桃音は知らない。
──────おれが郡光里でいられるのは、父親にマンションの場所が知られるまでの間だけ。
最初から期限付きだったんだ。
本気になったところで、すぐに離れることになる。
自分が桃音に本気にならないように。
桃音が、おれに本気にならないように。
距離をとりながらも、本当はずっと欲しくてたまらなかった。
いつ終わっても大丈夫なように、誰にも言わない、学校では話さない、名前で呼ばない……色々、線を引いてみたけど。
『こおり君、キスしたいよ』
この子が愛しいっていう気持ちには
どう頑張っても抗えないんだって
気づいてしまった。