ぜんぜん足りない。
おれが父親に見つかったあと大人しく言いなりになったのは、
桃音のそばにいるのは、おれじゃなくてもいいって思ったからだ。
桃音が本当に必要としてるのは律希くんだと思ったから……身を引いたのに。
「それが本当なら……桃音に、おれじゃなくてリツキくんと付き合いたいって言われたのは、なに」
「本心なわけないだろ。 お前、あの日桃音ちゃんにひどいことしたんだからな。逆に、あそこまでして、まだ想ってもらえてるってすごいぜ?」
……知らなかった、
桃音のいちばんには、もうなれないと思ってた。
「みっちー」
「ん?」
「みっちーは悪ふざけ好きだよね」
「それはお前だろ? オレは、その悪ふざけの手伝いをしにきたスーパーヒーローなんだってば」
厄介な問題はぜんぶ抜きにして、桃音がいちばんにおれを求めてくれてるなら、社長とか跡取りとか、おれの周りのちっさい世界なんか壊したって構わない。
「ちなみに桃音ちゃん、今日合コンらしいんだけど……間に合うといいね?」
楽しそうにネクタイを緩めて、相手はにやりと笑ってみせる。
ホテルの出口へと歩き出したその背中におれも続いた。