ぜんぜん足りない。
「じゃあ、オレがぴったりだよ! オレ、けっこうエスだもん」
「あ……うぅ、」
どうしよう、さっきより距離近いかも。
そして、こおり君のこと思い出しちゃったから、もう今日はだめな気がする。
こおり君にされて嬉しいことも、他の人にされたらぜんぜんだめなの……。
もうやだ……。
こおり君、会いたいよ……。
会いたい……。
「あーっ、マサ‼ 桃音ちゃん泣いてんぞ⁉ 何したんだよ‼」
「っえ、は⁉ オレはなにも……」
戸惑うマサくんに申し訳ない気持ちになりながら必死に涙を拭う。
「ごめ……ごめ、なさ……」
「あー、ちょっとあれかな? 合コン初めてで緊張しちゃった感じ? わかった、オレと二人きりになれるとこ行こ?」
「え……?」
腕を引かれて、体が固まる。
その直後だった。
「──────桃音、」
好きな人の声が聞こえた気がしたのは。