ぜんぜん足りない。


ううん、空耳じゃない。

だって、こおり君の声は特別なんだもん。


どんなにたくさんの人がいたって、こおり君の声だけは脳まで響いてくるんだ。


今まで何回も聞いてきて、ずっと聞きたいって思ってた声を、間違えるはずはない……。



「桃音、こっち」


ドッ…と心臓が跳ねた。


頭の上。わたしの後ろ。


ふりむいたら、



「……っ、なんで……」


信じられなくて言葉が続けられない。


スーツを着てて、すごい大人っぽくて、でも、間違いなくこおり君。



驚きのあまり涙も引っ込んだ。



「なにお前、オレたち合コンの最中なんだけど、見てわかんねぇ?」


「すみません。でも、いきなりふたりで連れ出そうとするような人に、この子を預けたくないんです」



こおり君の体温が後ろからわたしを包み込む。



「はあっ⁉ お前、桃ちゃんのなんだよ」


< 329 / 341 >

この作品をシェア

pagetop