ぜんぜん足りない。
ううん、空耳じゃない。
だって、こおり君の声は特別なんだもん。
どんなにたくさんの人がいたって、こおり君の声だけは脳まで響いてくるんだ。
今まで何回も聞いてきて、ずっと聞きたいって思ってた声を、間違えるはずはない……。
「桃音、こっち」
ドッ…と心臓が跳ねた。
頭の上。わたしの後ろ。
ふりむいたら、
「……っ、なんで……」
信じられなくて言葉が続けられない。
スーツを着てて、すごい大人っぽくて、でも、間違いなくこおり君。
驚きのあまり涙も引っ込んだ。
「なにお前、オレたち合コンの最中なんだけど、見てわかんねぇ?」
「すみません。でも、いきなりふたりで連れ出そうとするような人に、この子を預けたくないんです」
こおり君の体温が後ろからわたしを包み込む。
「はあっ⁉ お前、桃ちゃんのなんだよ」