ぜんぜん足りない。


息切れ切れにたどり着いた、こおり君ち扉の前。


後ろにひっくり返った前髪を手ぐしで元に戻してからインターホンを押す。


直後に反応がないのはいつものこと。

たぶん、あと30秒くらいしたら、中のほうから足音が聞こえてくるはず……なんだけど。



──あれ? 無音?

もう1回ピンポンしてみても、結果は同じ。


居留守使ってる?
それとも外出してる?


スマホを開いて連絡先をタップした。


軽快な呼び出し音が流れ始め、およそ30秒後。ようやく繋がった。


『……なに』

気だるげな声は相変わらず。



「こおり君、わたしだよ」

『知ってるけど』


「こおり君の彼女だよ」

「……うん、そーだね」


今、電話の向こうで、少し笑った気配がしたのは気のせいかな。

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