ぜんぜん足りない。
返事がくるまで、微妙な間があった。
『……桃音の彼氏って、おれじゃないの?』
抑揚のない声がわたしの心臓を狂わせる。
「わたしの彼氏は、こおり君、だよ」
『うん』
「いきなりどうしたの」
『お前今ひとり?』
「うん。ひとりだけど」
『おれ今マンション近くのコンビニにいる。から、家で待ってて』
通話はそこでプツリと切れた。
スマホを耳に当てたまま、しばし放心。
──────今、家で待っててって言われた。
こおり君。
まだ、ぜんぜん夜の7時30分じゃないよ。
いつもの約束の時間じゃないのに、会ってくれるの?