ぜんぜん足りない。
「お邪魔しま……んぎゃ!?」
玄関に足を踏み入れた瞬間、腕をぐっと引っ張られてヘンな声がでる。
脱臼するんじゃないかと本気でヒヤッとした。
いつもは綺麗に並べるローファーも、腕をオラオラ引かれるせいで、つま先を抜くのがやっと。
玄関の床に逆さまに転がってしまう。
「いだだだ、いたい、よ」
そしたら、あっさり手を放すこおり君。
その顔を見上げると同時、無機質な瞳の中に囚われた。
「……」
「……」
こおり君の手にぶら下がってるコンビニの袋が揺れる。
取っ手の部分が擦れ合って、クシャッと音をたてた。
「……こおり君、コンビニで何買ったの?」
「桃音はみっちーと何してたの」
「プリン食べに行ってた。駅前のカフェの。ていうか、先に質問したのわたしだよ」
「……おれは」
ふと、こおり君の目線が下りてくる。わたしの高さにぴったり重なって。
「おれは、桃音と一緒にいたかったのに」
──────うそだ。
だって笑ってるもん。
目元も、口元も。
さっきまで無表情だったくせに。……こういうときだけ。