ぜんぜん足りない。
状況がマズくなったらテキトウに甘いセリフ吐いて、離れられなくさせるんだもんね。
いつも頭の中ではわかってて、これきりにしようって思うのに、こおり君は“上手”だから。
「こおり君て、いつも余裕だよね」
「余裕?」
「わたしは、こおり君が他の子と喋ってるだけで胸の中がぐわって重たくなるよ。喋んないで、触んないでって思っちゃう。こんなこと言ったら面倒くさがられると思って、我慢してるけど」
こおり君に対抗して冷静を振る舞おうとするけど、ぜんぜんダメだね。
余裕がないから、こんな言葉が出てくるんだ。
「頑張ってみたけど無理だった。やきもち妬かないなんて、無理だったよ。……こおり君のこと好きだから」
「……うん」
ほらね、返事に期待してもムダでしょ。
「うん」で済ませちゃうんだから。
でも、でもね。今日の真相はまだ聞けてないよ。
「こおり君、今日ね。彼女が待ってるから、って那月ちゃんたちと遊ぶの断ったってほんと?」
しん…と静まる3秒間。
無言。
代わりに、誤魔化すようなキスが降ってきた。
わたしにもう何も言わせないってくらい、隙間がないキス。
押し当てられた唇からあっという間に熱が回って、頭がぐらぐらする。
「……っ、ぅ」
ビニール袋が床に落っこちる音がした。
こおり君が手を放したんだ。
袋を放した手がわたしのほっぺたに添えられる。
触れた部分がヒリヒリするくらい熱い。
「……んっ……、ん」
いよいよ酸素が足りなくなって、ぎゅっとこおり君のシャツをつかんだら、最後に唇をゆるく噛まれて。
解放された瞬間、力ががくんと抜けたのを、こおり君の腕がぐいっと引きあげて支えてくれる。
その足元。
落ちた袋の中に、見覚えのあるプリンのパッケージが2つ見えた。