ぜんぜん足りない。

ひやり、周りを流れる空気が、一瞬で凍りついた気がした。


見上げるわたし。
見下ろすこおり君。



「あそこのカフェのプリン、おれと食べに行きたいって言ってなかった?」

「え……う、言ってたけど」

「うん。だから、そーいうところ」



“そーいうところ”。

こおり君と行きたいって言ってた場所に、みっちーと行った……から怒ってるの?




「わたし、こおり君と行きたかったよ」

「うん」

「でもこおり君は、何回誘っても、いいよって言ってくれなかったじゃん」

「だからって他の男と行くんだ」


「っ、ミヤちゃんも一緒だったよ。3人で行った!」

「……そーいう問題じゃ、」



こおり君がふと押し黙る。

まぶたが伏せられて、表情にかげが落ちた。


ドキッとする。
一瞬だけ悲しそうに見えたから。

たぶん、角度と影の問題。まばたきしてもう1回見たら、いつもの冷めた顔がそこにあった。

< 54 / 341 >

この作品をシェア

pagetop