ぜんぜん足りない。
ひやり、周りを流れる空気が、一瞬で凍りついた気がした。
見上げるわたし。
見下ろすこおり君。
「あそこのカフェのプリン、おれと食べに行きたいって言ってなかった?」
「え……う、言ってたけど」
「うん。だから、そーいうところ」
“そーいうところ”。
こおり君と行きたいって言ってた場所に、みっちーと行った……から怒ってるの?
「わたし、こおり君と行きたかったよ」
「うん」
「でもこおり君は、何回誘っても、いいよって言ってくれなかったじゃん」
「だからって他の男と行くんだ」
「っ、ミヤちゃんも一緒だったよ。3人で行った!」
「……そーいう問題じゃ、」
こおり君がふと押し黙る。
まぶたが伏せられて、表情にかげが落ちた。
ドキッとする。
一瞬だけ悲しそうに見えたから。
たぶん、角度と影の問題。まばたきしてもう1回見たら、いつもの冷めた顔がそこにあった。