ぜんぜん足りない。

何を言われても動じなさそうな。

喜怒哀楽がちゃんと存在してるのか、不安になってしまうような。

……わたしのことなんか、ちっとも見えてないんじゃないかって、疑ってしまうような。



「こおり君」


急に怖くなる。
怖さを埋めるように名前を呼ぶ。



「一緒にプリン食べよ」


わからず屋って言われた原因のセリフ。
わざと口にして、わざと繰り返した。



「一緒にプリン食べよう、よ」



思ったよりも弱々しい声しか出なかったけど。


返事をもらう前に、こおり君の手からビニール袋を奪う。力が入ってなかったみたいで、あっさり取れた。


袋の中は、プリン2個だけ。

他にはなんにも入ってないの。

目の奥がじわっと熱くなりかけて、あ、やばいかもって、思ったら。



「 、勝手に取るなって」



ふっと視界が暗くなって、わたしの唇に、こおり君の唇がやさしく重なった。


また、思考停止。

時間差で、心臓だけが活発になる。


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