ぜんぜん足りない。

「そっ、それは」

「うん」

「両想いになってからじゃないと、いやだから……」

「………」


綺麗なこおり君の顔が、ほんの少しだけ歪む。



「じゃあおまえ、なんで付き合ってんの?」

「へ? なんでって……、こおり君が好きだから、だよ」

「……そーいうところが、意味わかんないっつってんの」



最後のボタンが留まった。

睨んでくる目が鋭くて、胸にぐさっと突き刺さった心地がした。



「す、好きって言ってるのに、なにが “ 意味わかんない” なの!? こおり君のほうが意味わかんなんだけど!」



悲しい気持ちを悟られたくなくて食い気味につっかかる。
こういうときは、なんでだか饒舌になってしまう。



「そんなにしたいなら、那月ちゃんとすればいいじゃん!」



これ、わたしのわるい癖。
悲しくなると、思ってもないこと言っちゃう。

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