ぜんぜん足りない。


2、3回、なだめるような手つきで背中を撫でて。
わずかに力が弱まったかと思えば、次の瞬間、ぐたっと体重をあずけてきた。


言葉の意味を考えるよりもドキドキのほうが勝って、思考回路は寸断される。




「……こおり君、」

「なんか眠くなってきた」

「えっ」

「いっしょに寝よーか」

「えっ、は! まだ思考が追いついてない!」



わたしの声なんか聞く耳もたず。

さっきとは逆向きに、ふたりで床に倒れこんだ。


こおり君の顔を見る暇もなく、横になった状態でおもむろに抱き寄せられるから、視界はこおり君のシャツで覆われる。


他には、なんにも見えないよ。

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