ぜんぜん足りない。
へえ、と今度はジト目で攻撃される。
ミヤちゃんに呆れられるのにはもう慣れた。
「追っかけるって言っても、郡光里はアイドルじゃないんだから……」
「そ、そんなのわかってるって!でも、っ」
わたしの彼氏なの……。
いっそミヤちゃんに言ってしまいたい。
ほんとは付き合ってて、学校ではそっけないけど、家ではラブラブなんだよって。
いや、ラブラブは言いすぎかな?
正直に話したら、ミヤちゃんはなんだかんだ言いつつ、きっと応援してくれるはず。
言いたいな、だめかな。
そんな欲に駆られて、口を開きかけたとき。
「桃ちんが寂しいのはわかるけどね。光里くんじゃ、“ あの人” の代わりにはならないよ?」
あまりに突然すぎたせいか、体がびくっと震えてしまった。
それから、痛みが染みていくみたいにじんわりと広がる。
……心臓をぐっ、と丁寧に一刺しされたかのような。
「光里くんのこと、本気じゃないんでしょ?」
ミヤちゃんの唇が冗談っぽく笑ってる。目を見れなくて、口元しかわからなかった。
「あの人、早く帰ってきてくれるといいね〜。桃ちんの部屋って、ひとりじゃ広すぎるし」
なにか言おうとしても唇が震えるから、黙ってうなずくことしか、できなかったんだ。