ぜんぜん足りない。


指先からふっとチカラが抜けて、スマホが床に落っこちる。


うそだ……ぜったいうそ。

はじめに笑いがこぼれた。そのあとになぜか、涙がほっぺたを流れた。


……わたしのことなんてどうでもいいから、家を出ていったくせに。

涙が出たのは未練があるからじゃない。
過去の辛い気持ちを思い出してしまっただけ。


あの時に言ってほしかった言葉を、今さら、あっさり口にする律希。

わたしがこのメッセージになにか返事をするとしたら「ふざけないで」の、ただひとこと。


キーボードの上を指先がいったりきたりする。しばらく悩んで、結局返信はしなかった。

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