ぜんぜん足りない。


ピンポーン。

こおり君の部屋のインターホンを押したのは、6時45分。



「……ほんとに来たんだ」


こおり君の部屋にお邪魔するのはいつものことなのに、珍しいものを見るような目を向られる。



「お邪魔します」

「どーぞ」

「こおり君、ご飯食べた?」

「まだ」

「じゃあ、えっと……」


一緒に食べる?

問いかけると、少し間を置いて「食う」と返事が返ってきた。



「桃音が食べてこないの、めずらしーね」

「あ、うん……。それどころじゃなかったから」

「なんだそれ」


小さく笑うこおり君。

今日、機嫌がいい?



「あと、ね。まだお風呂も入ってなくて、よかったら貸してくれないかな〜? なんて」

「風呂? いいけど、……」


なにか言いたげに見つめられたけど、結局その先はなかった。

いつも通りゆるい格好をしたこおり君は、サイフとスマホだけを手に持って玄関を出ていこうとする。

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