ぜんぜん足りない。
人の家に入ってきたこおり君は、そのままわたしの腕を掴んで、ズカズカ奥に進んでいく。
まるで自分の家みたいにあたしの部屋にあがりこんだかと思えば、わたしの体を……
「っ、ぎゃう!?」
──ベッドに投げた。
「桃音、」
わたしの名前を呼びながら、ベッド脇に静かに手をついたこおり君。
「電話無視するとか、生意気で腹立つ」
はあーっと長いため息。
わたしは上半身を起こして、こおり君を見上げる。
こおり君からの電話?
そんなの、もらってないけど……。
首を傾げながらも、今はもう、こおり君が目の前にいること以外考えられなくて。
ただただ心臓だけが暴れている状態で。
そんな中。
「熱でも出て倒れてんのかと思った」
ぼそっと低い声を落としたこおり君が、面倒くさそうにわたしを抱きしめた。