ぜんぜん足りない。


「こおり君、どこに……」

「夕飯食べてないんでしょ。外、行こ」

「えっ! あ」

「そのでっかい荷物は、とりあえず玄関に置いときな」

「は、はい……っ」


バカみたいに顔が紅潮していくのがわかった。

だって、外を一緒に歩けるなんて初めてなんだもん。



「ねえ、いいの? わたしと外歩いても」

「夜だからいいんじゃない。暗くておれたちだってわかんないでしょ」

「まだちょっと外明るいけど」

「うるせーな、いいんだって」



ちょっと雑に腕を引っ張られてキュンときちゃうなんて、おかしいのかもしれない。


こおり君のなんとも言えない冷たさが、なんだかんだ好きなんだと思う。

雰囲気も口調もゆるいのに、ときどきわざとらしく荒っぽくなるところとか。

拒否の意味で冷たくされるのとは、また違う。



「外食デートだね、へへ」

「おれはコンビニで済まそうと思ったけど」

「えっ!」

「……冗談だよ。あそこのファミレスでいい? 近いし」


コクコクうなずく。

外に出てさりげなく腕を絡めてみた。ぜったい嫌がると思ったのに


「暑苦しい」

こおり君はそう言いながらも……振り払わなかった。

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